酒と豊穣の神・バッカスに仕える巫女、HALがお届けするお酒にまつわる物語
 
 

つまり、すべてのなかで、悪徳こそはもっとも望ましい、もっとも近づきがたい財産なのだ。アルコールのように、こうした思いが醸し出され、僕の幸福な頭のなかで泡立ち、幸福が内部にこぼれ出るのだった。……

ジョルジュ・バタイユ『聖なる神』の一節です。破滅への欲動に満ちたこの作品のなかで、シャンパンは陶酔の象徴としてあらわれます。

今月はシャンパン「ヴーヴ・クリコ・ポンサルダン」のご紹介です。“ヴーヴ”とは未亡人の意味。夫に先立たれたクリコ未亡人は、27歳の若さで会社を受け継ぎます。

フランスの北部、パリから145㎞の地に位置するシャンパーニュ地方のワインは、17世紀まで非発泡性のものでした。一説では17世紀後半に盲目の僧、ドン・ペリニョン師の発明により、現在のような発泡性のワインになったといわれています。

特定の地域で栽培されたブドウを使用し、栽培方法、醸造方法などにおいて一定の基準を満たしたもののみが、シャンパーニュの名をラベルに表示できます。品種は白ブドウのシャルドネ、黒ブドウのピノ・ノワール、ピノ・ムニエの3品種に限られます。

工程は、一次発酵までは通常の白ワインと変わりません。黒ブドウの場合も搾汁後、果皮との接触を避けて白ワインにします。ワインをブレンドして瓶に詰める際、酵母とその養分となる蔗糖を加えて密栓します。ここから二次発酵が始まり、瓶内で炭酸ガスを発生させます。

役目を終えた酵母が澱となり、独特の旨味成分が生まれます。しかし澱が残ったままではシャンパンは濁ってしまいます。これを取り除くため、ルミアージュ(動瓶)と呼ばれる作業に入ります。職人による過酷な作業であり、最近では機械に取って代わりましたが、未だに人の手によって行われている所もあるそうです。最後に甘味調整をしたワイン(甘味を添加しない場合もある)を加え、打栓して、ようやくシャンパンが完成するのです。

ひときわ目を引く山吹色のラベル

ひときわ目を引く山吹色のラベル

フルートグラスは泡と香りの持ちが良い

フルートグラスは泡と香りの持ちが良い

今回は手頃な価格の「ブリュット(辛口)・イエローラベル」を飲みました。品種の割合は、シャルドネ28%、ピノ・ノワール56%、ピノ・ムニエ16%。

淡く澄んだゴールド。熟れたリンゴに似た香り。柔らかな気泡。口に含むと唐突にはじけるみずみずしい味わい。切れ上がりの良さ。時間を掛けても飲み飽きがせず、いつまでも凛とした姿を崩さない。食前酒として、また前菜からデザートまで広範に楽しめます。

華やかな席にシャンパンは欠かせませんが、昼下がりのひっそりとしたホテルのラウンジで飲むのもまた一興。良く晴れた日、訳もなく休暇を取り、溢れる暖かな陽射しの中、運ばれてくるシャンパングラス。尽きることを知らない泡越しに外を見れば、真冬の冷たい風に吹かれて足早に通り過ぎるビジネスマン。私のささやかな悪徳。