酒と豊穣の神・バッカスに仕える巫女、HALがお届けするお酒にまつわる物語
 
 

さらに奇妙な料理の例をいくつかお目にかけよう。すなわち、罌粟[けし]の粒をまぶした大山鼠[おおやまね]の細切り、ガルム(鯖の内臓と生き血から製したソースの一種)に漬けた針鼠、似鯉の内臓、鶫[つぐみ]の脳髄、牝豚の乳房と子宮の煮こみ、それに生きた雄鶏の頭から切りとった鶏冠[とさか]など。……

澁澤龍彦『イタリアの夢魔』の一節です。古代ローマの美食家たちが珍重した料理の数々ですが、そう説明されなければ悪魔を呼び出す儀式と思い違いをしそうです。

今月はイタリアワイン「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」のご紹介です。

イタリアワインは国による品質管理が厳しく、そのため常に安定した品質を維持しています。統制保証原産地呼称と訳されるDOCGとは、イタリアワイン法の最上級格付けを意味します。その数わずか28。それに次ぐ格付けDOCの指定生産地は303、3番目のIGT(典型的産地表示付き)ワインが123、最下位がVdT(ヴィーノ・ダ・ターヴォラ)という四層構造です。

イタリア中部に位置するトスカーナ州では6つのDOCGが認められています。その中のひとつであるブルネッロ・ディ・モンタルチーノは、野獣・野鳥の肉料理に合う重厚な赤ワインです。シエナ県モンタルチーノで作られ、原料はブルネッロ種100%。この葡萄は、イタリアの代表的品種であるサンジョヴェーゼの亜種です。別名サンジョヴェーゼ・グロッソ。

イタリアに旅行した際、フィレンツェのレストランでブルネッロ・ディ・モンタルチーノと初めて出会いました。料理は、扇状に拡がった骨付きウサギ肉のロースト。旅先の軽い興奮と相まって、現実とは思えないほどの美しさで眼前にその時の記憶がよみがえります。

シエナの戦いの歴史を思わせるエチケット

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我が家の愛猫

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今回はバンフィ社のものを飲みました。1997年はグレートヴィンテージ。度数は13度、沈んだ濃赤色。グラスに注ぐと待ち切れないように芳香を放ちます。華奢なワインとは異なり、デキャンタージュで性急に眠りを覚ましても機嫌を損なうことはありません。しかし、耳元で囁きかけるように徐々に起こしてやると、固いつぼみから花がほころぶ過程を楽しむことができます。味は極めて複雑、力強く、バランスの良さは勿論、包容力を感じさせます。

前出のレストランからホテルまでの帰り道、暗い裏通りにうっすらとこぼれる灯り。火取り虫のように近づくと、店内一面に夥しい数の仮面。奥のテーブルには作業する男性がひとり。無遠慮に覗き込んでいる私に気付いた彼は、閉店後の店内に招き入れてくれました。すべて彼の手によって作られた仮面たちの中から、細かい彩色が施された猫と目が合いました。それは遥か海を越え、小さな部屋の片隅に飾られています。フィレンツェの猫は今も虚空の瞳で、私を見つめているのです。