酒と豊穣の神・バッカスに仕える巫女、HALがお届けするお酒にまつわる物語
 
 

勧 君 金 屈 巵  コノサカヅキヲ受ケテクレ

満 酌 不 須 辞 ドウゾナミナミツガシテオクレ

花 発 多 風 雨 ハナニアラシノタトヘモアルゾ

人 生 足 別 離 「サヨナラ」ダケガ人生ダ

 晩唐の詩人、于武陵の五言絶句『勧酒』(井伏鱒二訳)です。井伏は翻訳というものの範疇を軽々と越え、本質のみを抽出し、鮮やかに目の前へと並べて見せるのです。

 今月は「紹興酒」のご紹介です。
中国は世界で最も古くから酒づくりが行われてきた国のひとつです。

河南省にある新石器時代の遺跡で見つかった約9000年前のつぼの破片から、米や蜂蜜、葡萄などで造られた酒のような発酵飲料の滓が検出されました。

また、夏王朝(紀元前21世紀~前16世紀)の時代、儀狄[ぎてき]という官僚が濁酒を作り、それを禹王に献上したことが『戦国策』に記されています。禹王は余りの美味しさに、後世、酒で国が滅びることになりかねないと酒造りを禁止しました。しかしこの憂いは現実となり、夏王朝最後の皇帝は酒で身も国をも滅ぼしてしまいます。

中国でつくられる酒の種類は大きく6つのカテゴリーに分けられます。穀類の蒸留酒である白酒、ブランデーを音訳した白蘭地、蛇などの動物エキスを配合した強精補酒、漢方薬と酒とが調和した葯味酒、果実を醸造した果酒、4000年以上前から造酒の歴史をもつ黄酒。
紹興酒は黄酒の一種です。原料はもち米と、小麦で作った麦麹。この麦麹のほかに「酒薬」を添加するのが製法上の特徴です。

酒薬とは、もち米の粉に辣蓼草(柳蓼。「蓼食う虫も好き好き」の語源となった植物)・陳皮(柑橘類の皮)・肉桂・甘草などを混ぜてつくった酵母や乳酸菌の種です。

仕込み水は浙江省紹興市にある鑒湖の湧き水。発酵・濾過ののち甕に入れて密封し、長期間熟成させます。年月が経つほどまろやかで香味のある酒になるので、俗に「老酒」とも呼ばれています。

飲み乾したら、一輪挿しに

飲み乾したら、一輪挿しに

甘味と酸味の絶妙なバランス

甘味と酸味の絶妙なバランス

 今回は、日盛紹興老酒熟成五年を飲みました。日盛酒業有限公司は鑒湖のほとりにあり、すべて手作りで醸造がおこなわれています。度数は17度。深い飴色。黒砂糖にも似た独特な味と香り、そして酸味。すっと切れ上がるコク。後味はなぜか、子供の頃に食べた蒸しパンを思い出します。

 本場中国では常温ストレートで飲むのが一般的です。氷を浮かべるかソーダ割りにすると、苦手意識がかなり払拭されます。燗するのは日本独特の飲み方で、ぬる燗にレモンスライスの組み合わせ。また、氷砂糖やザラメを入れる向きもありますが、そもそも氷砂糖は、かつて紹興の旧家が新酒を披露する際に「不出来でしたら砂糖を入れてお召し上がり下さい」と紹興酒に添えて出したものです。

 到来間近の春を待ちわびながら、年経た老酒を味わいましょう。三寒四温を繰り返し、行きつ戻りつする季節。白梅がその香りとともにおずおずと開きかけた花の上へと降る、無情の雨。路上に落ちた花びらは、賽の河原の小石のように白々と散らばります。それでも冬は、決して留まることを許されないのです。