酒と豊穣の神・バッカスに仕える巫女、HALがお届けするお酒にまつわる物語
 
 

 しかし主な理由は、惜しみなく溢れ出るような夏の生活が、墓中の氷のような磽埆[こうかく]さと一層強い対照を作っていることである。……

 ボードレール『人工楽園』(渡邊一夫訳)の一節です。真夏の強烈な陽射しは、正視できない程に眩しくすべてを照らし出しながら、同時に地上へ黒々とした不吉な影を落とすのです。

 今月はイタリアの白ワイン「ガヴィ」のご紹介です。

 北イタリア、ピエモンテ州。アルプス山脈に近く、山や大陸の影響を受けやすい地域です。バローロやバルバレスコなどの偉大な赤ワインの産地で知られています。

 ガヴィの生産地はピエモンテ州南東部、アレッサンドリア県の丘陵地帯。ガヴィ村を含めた11の村で作られています。なかでもガヴィ村で造られたものは、ガヴィ(・デル・コムーネ)・ディ・ガヴィと呼ばれ「ガヴィの中のガヴィ」を意味します。

 1998年、DOCからDOCG(イタリアワイン法の最上級格付け)に昇格しました。原料はコルテーゼ種100%。土着品種で、そのまま生でも食べられる葡萄です。

 今回はフォンタナフレッダ社のガヴィ・デル・コムーネ・ディ・ガヴィを飲みました。この名門ワイナリーはヴィットーリオ・エマヌエーレ2世の息子が設立し、1878年創業という古い歴史を持ちます。

 ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世という人物は、イタリア王国の初代国王です。それまで小国に分裂していたイタリアを統一、1861年に即位します。ローマのヴェネツィア広場には彼の偉業を称えるために、恐ろしく巨大な白亜の記念堂が建てられています。周囲の風景とまったく調和しない建造物として、建設当時非常に評判が悪く、色と形が似ていることから付いたあだ名が「ローマの入れ歯」。

フォンタナフレッダ社は、かつて王家のものであった広大な土地と財力(親会社は銀行)を活かし、優秀な人材を揃え、近年は品質向上に努めてきました。

スタイリッシュなエチケット

スタイリッシュなエチケット

一度飲むとやみつきに

一度飲むとやみつきに

 ヴィンテージは2005年。若飲みなので、購入したら取っておいたりせず、すぐに飲んでしまいましょう。度数は14度。薄く緑がかったレモンイエロー。透き通った香り、あっさりとした酸味、そして若干の苦味があります。よく飲みやすいと言われますが、油断してかかると意外にくせがあることに気づきます。後味は、みかんを房ごと食べた時のようです。

 ヴェネツィアで初めてガヴィ・ディ・ガヴィを飲んだときには、レモンを絞った揚げたてのフリットミスト(魚介類のミックスフライ)と共にいただきました。この素朴な組み合わせは、互いの美味しさを最大限に引き出します。甲殻類や生牡蠣ともよく合います。

 夏の終わりを惜しむ蝉の声は、子供の頃の記憶を呼び起こします。暴力的に身を焦がす太陽の勢いに翳りが見え、秋の気配を含んだ風が吹くと、永遠とも思われた長い夏休みが終わります。暮れかけた町に「夕焼け小焼け」が流れると、早くおうちへ帰らなきゃ、と大人になった今でも思うのです。